【ポイント】
・ 4つのアングライト隕石のSi同位体比分析を実施し,他の隕石と異なり,地球岩石 物質に近い値をもっていることを発見した。その結果,これらは原始太陽系星雲内 での凝縮により形成されたSi同位体比を保持していることを示唆している。
・ 上の結果をもとに高温の原始太陽系星雲が冷えていく際の凝縮分別を考えると,す べての隕石(火星,月由来のものも含む)と現在の地球岩石部分の化学組成とシリコ ン同位体比は,調和的に説明できる。
・ 凝縮分別モデルを使うと,核を持つ各種天体の岩石部分のMg/Si比とシリコン同位 体比からその天体のバルク化学組成(Mg/Si比)と核内のシリコン含有量を推定でき る。 新しいモデルによる地球のMg/Si比は炭素質隕石と同程度であり, 核内のシ リコン含有量は従来の推定値から下方修正される。
地球の金属核のシリコン含有量を解明
地球の金属核の成分は「地球の材料は何だったのか?」を明らかにするための重要な手が かりの一つです。金属核は主に鉄とニッケルの合金からできていますが,その他にシリコン などの軽元素が少量含まれていることが知られています
※1
。このことは,金属核に取り込ま れた軽元素は地球の地殻やマントルからは失われてしまったことを意味しています
※2
。 しかし,金属核に含まれる軽元素は地球表層の岩石試料(バルクシリケイトアース, BSE)の 分析だけでは調べることができず, 地球の材料は長年の謎とされてきました。その解明の ために, 地殻やマントルの大部分を占めるマグネシウムとシリコンの比(Mg/Si 比)の元々 の値を決定することが望まれてきました
※3
。
名古屋大学の小林 浩(こばやし ひろし)助教,千葉工業大学の黒澤 耕介(くろさわ こ うすけ)研究員は,シカゴ大学のNicolas Dauphas 教授を中心とする米仏日の国際共同研 究チームに加わり, BSE 試料の分析から地球の金属核中のシリコン量を推定することを目 指しました。研究チームは,これまでに計測例がないアングライト隕石のシリコンの高精度 同位体分析を実施しました。その結果,アングライト隕石
※4
は,地球の岩石試料と似たMg/Si 比とシリコン同位体比を示すことがわかりました(図1)。 研究チームは,新しいデータと これまでに報告されている各種隕石試料,地球,月,火星の岩石試料のデータについて検討 し
※5,太陽系物質の岩石成分は原始太陽系星雲中での化学過程の痕跡を残していることを見 出しました
※6
。
その痕跡を紐解くと,岩石部分のシリコン同位体比と Mg/Si 比との分析結果から,その 惑星全体のバルク化学組成(Mg/Si 比)と核内のシリコン含有量を同時に推定可能
※7
になり ます(図2)。新しいモデルでは,地球のバルク化学組成Mg/Si比は1.16(+0.1/-0.13)とな り,太陽組成と同程度と推定されます。地球の金属核のシリコン含有量は,3.6(+6.0/-3.6) wt%と従来の予測値から大幅に下方修正されることがわかりました。
この研究成果は,欧州科学誌の『Earth and Planetary Science Letters』電子版(7月24 日付)に掲載されたほか,米科学誌『Science』(8月28日付)のEditor’s choiceに選出され ました。
. 各種隕石 地球岩石試料(BSE) シ ン 位体比。
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図2. 「Mg/Si比」に対する「Si同位対比」の関係図。本研究で求められたフォルステ ライト凝縮分別曲線を灰色の領域で示している。 この図上で金属核のシリコン含有量 を変化させた場合の地球全体のMg/Si比,Si同位対比の変化曲線(緑太線)と灰色領域の 交差する領域を求めることで,地球全体のMg/Si比と金属核中のシリコン量を同時に推 定することができる。
【補足説明】
(※1)地球の金属核は主に鉄とニッケルの合金からできていることがわかっていますが, その密度は純粋な鉄-ニッケル合金に比べると小さいこともわかっています。そのため, 地球の金属核には鉄-ニッケルよりも軽い元素が溶け込んでいることがわかっています。 地球の核の密度は地震波の計測から求められています。地球核内の軽元素の候補として は水素,炭素,硫黄なども挙げられています。
(※2)できたての地球は放射性熱源や集積の熱によって熔融していました(マグマオー シャン)。その際に密度が大きい鉄-ニッケルはマグマの中を沈降し,金属核を形成した と考えられています。この時,鉄と結びつきやすい元素は鉄に溶け込み,地球深部に持 ち去られてしまいます。
(※3)地球を始めとする太陽系の固体惑星は形成時に一度熔融し,鉄を多く含む金属核 とマグネシウム,シリコンを多く含むマントル,地殻に分化した成層構造をしています。 それに対して各種隕石母天体は未分化のままで鉄,マグネシウム, シリコンが混ざっ ています。そこでマグネシウムとシリコンの比を取って両者を比較するとその類似度を 判定することができます。
(※4)アングライト隕石は最も揮発性成分に乏しい隕石種の一つで,高温環境で生成し たと考えられています。しかし,地球化学的な分析からその母天体は全体が熔融し,分 化を起こしてはいないことが示唆されています。この隕石がBSE試料に近いMg/Si比, シリコン同位体比を持っていることを発見したことが今回の研究成果の肝となってい ます。これまではBSE試料がその他の隕石種よりも高いMg/Si比,重いシリコン同位体 比を示す理由として,初期に大規模な熔融を経験し,分化を起こしたことが提案されて きました。しかし,形成後に一度も熔融を経験していないはずのアングライト隕石から も同様の結果が得られたことで,別の過程で説明しなければいけなくなりました。
(※5)各種隕石(月,火星由来の隕石も含む)とBSE試料のデータをもとに,アングライ ト隕石の元となった母天体上で高いMg/Si比と重いSi同位体比を作り出す分別過程に ついて検討しました。従来は岩石が熔融する際にMg/Si比とSi同位体比が同時に変動 すると考えられており,アングライト母天体は少なくとも一部が熔けるような高温を経 験したと考えられてきました。研究チームはアングライト母天体が熔融し,Mg/Si比と Si 同位体が分別を受ける可能性について地球物理学的な検討を行い,それが否定され ることを示しています。
(※6)太陽系の最初期は中心の太陽と取り囲むガス円盤であったと考えられています。 ガス円盤のガス組成は太陽と同じです。徐々に温度が下がってやがて固体が凝縮して固 体惑星を作る材料が誕生したと考えられています。研究チームはMgを含む固体として 最初に(言い換えると最も高温で)凝縮するのはフォルステライト(Mg2SiO4)であること に着目しました。フォルステライトはMg/Si比が2であり太陽のそれの二倍の値になり ます。フォルステライトが凝縮する際には質量に依存した同位体の分別を起こし重いシ リコン同位体に富むことが知られています。従って高温で凝縮したフォルステライトを 多く含む天体や隕石は高いMg/Si比,重い同位体比を持つことになります。このモデル から得られる理論曲線は,アングライト隕石を含む各種隕石と BSE 試料の Mg/Si 比と Si同位体比データとよく一致することがわかりました。
(※7)金属核を持つ天体の岩石部分の Mg/Si比とシリコン同位体比が同時に計測されて い る 場 合 は , 金 属 核 に 含 ま れ る シ リ コ ン の 量 を パ ラ メ ー タ と し て 変 化 さ せ た 場 合 に Mg/Si比-Si同位体比図上でどのような曲線を描くかを計算することができます(図2)。 この曲線と原始太陽系星雲ガス中でのフォルステライトの凝縮分別による理論曲線の
交点を求めることで,現状では技術的に観測不可能な金属核を持つ天体のバルク組成 (Mg/Si比)と金属核に含まれるシリコンの量を同時に推定することができるようになり ました。
【発表論文】
Dauphas, N., F. Poitrasson, C. Burkhardt, H. Kobayashi, and K. Kurosawa (2015),
Planetary and meteoritic Mg/Si and d
30Si variations inherited from nebula chemistry,
Earth and Planetary Science Letters, 427, 236-248.
【関連文献】